【ガールズ・ストーリー-少女たちの物語-】第02話

 点灯している街路灯の数が少なく、夜になると薄暗くなる区画。

 そんな区画にある、上半分がなくなっているビル。その中から、いくつもの銃声が響く。

 多数の銃声に押されるようにしてビルの外に出るのは、カンナである。左手に大きなバッグを持っていた。

 彼女を追いかけて、数人の少年がビルの中から出てくる。少年たちの手には、拳銃が握られていた。

 カンナに向かって発砲する少年たち。

「わわっ!」

 バッグを持って走るカンナは、慌てて姿勢を低くする。

 低い姿勢で走り続けるカンナは、

「おーい、用心棒!」

 と叫んだ。

 すると半壊している建物の陰から、ジゼルが姿を見せた。

 姿を見せたジゼルはフライトジャケットの内側に縫(ぬ)い付けているホルスターから拳銃を抜き、両手で構える。

 ジゼルが構えるのは、古いモデルの5発しか撃てないリボルバー拳銃だ。

【災厄地震】以前の国の警察で使用されていた拳銃。警察が使う拳銃を更新し、廃棄されるはずだった。しかし、その前に【災厄地震】が発生した。

 拳銃は廃棄されず、【忘れられた街】に流れてきた。

 5発しか撃てないが、弾丸は簡単に入手でき、この拳銃そのものも入手が簡単。ゆえにジゼルは、この拳銃を使っている。

 ジゼルはカンナを追いかけている少年たちにリボルバー拳銃を向け、トリガーを引く。

 銃声が響き、少年が1人倒れる。生きているのか死んだのか分からないが、倒れた少年はそのまま動かない。

 ジゼルはもう1回、トリガーを引いた。もう1人、少年が倒れて動かなくなる。

 仲間が2人、ジゼルによって撃ち倒されたのを見ると、残った少年たちは逃げ出す。

 仲間意識というものは薄いようだ。倒れている2人の少年を助けようともしない。

 ジゼルは逃げる少年たちを撃とうとはしない。弾丸もタダではない。

「行くぞ」

 ジゼルはカンナの右手を掴むと一緒に走った。少年たちが追ってくる様子は無い。

 しばらく走ると、前方が明るくなっているのが見えた。ジゼルはカンナと一緒に、その明るい場所に入る。

 そこは商店街の1つであった。

「ここまで来れば安心だな」

 ジゼルは掴んでいたカンナの手を離し、リボルバー拳銃をホルスターに戻す。

 カンナは彼女に「サンキューな」と礼を述べる。そして腰のポーチから封筒を取り出し、差し出す。

 ジゼルは封筒を受け取り、中身を確認する。入っているのは金だ。ジゼルがカンナの用心棒をした報酬だ。

「また用心棒、頼むぜ」

「ちゃんと払うものを払ってくれるのなら、やるさ」

 ジゼルは報酬が入っている封筒をフライトジャケットの内ポケットに押し込む。

「払うものは払うさ。あたしは、そこらへん、しっかりしているだろ?」

「だな」

 ジゼルとカンナは、そこで別れた。

◇◇◇

 ジゼルと別れたカンナは、商店街の中にある雑居ビルの一軒に足を運んだ。

 階段を下り、地下へ向かう。雑居ビルの地下には、バーがあった。

 カンナはバーの中に入る。それなりの広さがあるバーだが、客の数は少ない。

「ようっ!」

 カウンターにいるバーテンダーに、気軽な調子であいさつをするカンナ。

 あまり愛想がいいとは言えないバーテンダーは、

「カンナか」

 とカンナに顔を向ける。

「松田さん、ここにいるかい?」

 カンナに聞かれ、バーテンダーは店の奥を目で指し示す。「サンキュー」と彼に告げ、カンナは店の奥に向かった。

 そこにはドアがあり、カンナはノックする。

「松田さん、カンナだ。いいかい?」

 そう言うと、すぐに「あいているぞ」という男の声が返ってきた。

 ドアを開け、部屋の中に入るカンナ。【復興された街】から仕入れたと思われる調度品が置かれた部屋。

 部屋の中央にはソファとローテーブルが置かれている。座り心地が良さそうなソファに座っているのは、スーツ姿の男。年齢は30代の前半に見える。

「何の用だ、カンナ?」

 書類に目を通していた男は、視線をカンナに移す。

 男の名は松田。このバーをはじめ、【忘れられた街】でさまざまな店を経営している男だ。

 カンナはバッグを彼の前のローテーブルに置く。

「この間、ある組織が宝石とか盗まれたよな」

 バッグを開け、中身を松田に見せる。バッグの中身は宝石や貴金属だ。

「それを取り戻した。いつもみたいに、松田さんから組織に返してよ。あたしの名前を出してさ」

 カンナの言葉を聞きながら、松田はバッグの中にある宝石をいくつか手に取り、確かめる。

 どの宝石も本物であった。

 松田は、さまざまな店を経営しているだけの男ではない。【忘れられた街】のさまざまな組織とつながりがある男でもある。

「やってやるのもいいが……」

 松田はカンナに遠慮が感じられない視線を向けて言う。

「タダじゃないぞ」

 その言葉にカンナは「分かっていますって」と小さく肩をすくめる。

「じゃあカンナ……裸になれ」

 松田に言われてカンナは、

「りょーかい」

 と言葉を返した。

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